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 アーサー・C・クラーク『都市と星』(酒井昭伸訳 ハヤカワ文庫)
 不快なことは除去され、誕生や死も完全に管理された都市ダイアスパー。
 特殊な生い立ちを持つアルヴィンはダイアスパーから外に出ようとする。
 ダイアスパーは村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の「世界の終り」の街の原型のように思いながら読んだ。
 前半はダイアスパーの仕組みが精緻に描かれる。あまりに何も起こらなすぎて世界がスタティックにならないように道化(トリックスター)までもが仕組まれた都市。
 完全すぎるゆえに不自然なこの都市の秘密を暴くのがアルヴィンだが、当初はこの主人公が少し尊大な若者で思い入れができなかった。
 のちのち彼がさまざまな事件を通して成長してゆく教養小説にもなっているのだが。
 アルヴィンが地球のもうひとつの都市リスにたどり着き、そこから話は全宇宙的に大きく展開するが、私は話があまりにでかすぎて少々ついて行けなくなった。
 話としてはおもしろいが、『星をつぐもの』と違って自分のことのようにリアルにどきどきする感じがない。ストーリーの進め方が少しおおざっぱすぎるような。
 このへんは趣味の問題なのだろうけど。
都市と星〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ク) (ハヤカワ文庫SF)都市と星〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ク) (ハヤカワ文庫SF)
(2009/09/05)
アーサー・C・クラーク

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2012年02月17日 | | TrackBack:0 | | | Top↑ |
 ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』(創元SF文庫)
 2028年頃の話。月の洞窟で人間の死体が発見されたが、それは5万年前の死体だった・・・
 おそらくSF必読書の基本中の基本ですが、読んでませんでした。
 始まりは月面の場面。ここに登場する「彼」と巨人コリエル。二人が誰なのか、もっとあとに分かってきます。
 物語の中心となるのは天才的な研究者ハント。
 そして既成概念にとらわれているようにみえる生物学者ダンチェッカー。
 発見されてくる様々な遺物から二人が人類や月の成り立ちについて推理していきます。
 この小説はSFなのに考古学、歴史学的な興味をかき立てます。
 考古学的で推理小説でSF小説。
 未来から一気に過去に時間を遡行していく感覚。
 タイムマシーンでラスコー洞窟の絵を描いている場面に立ち合ったような驚きを与えてくれます。
 ちょうど、山賀進『地球について、まだわかっていないこと』(ペレ出版)をぱらぱらめくっていて、月が地球への原始惑星の衝突によって生まれたという「ジャイアント・インパクト」説や、地球の生物がなんども絶滅したりしたことを改めて知ったところだったので、「人類はどうやって生まれてきたのか」「月はどうして地球の衛星なのか」といったテーマに強く惹きつけられました。
 壮大なほら話ですが、決してあり得ないことではない、と思ってしまうのです。
星を継ぐもの (創元SF文庫)星を継ぐもの (創元SF文庫)
(1980/05/23)
ジェイムズ・P・ホーガン

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2012年02月16日 | | TrackBack:0 | | | Top↑ |
 谷岡一郎『SFはこれを読め!』(ちくまプリマー新書)
 そのタイトルどおりSF必読書のブックガイド。
 三人の会話の形式で、いくつかのテーマごとにSFが紹介されていきます。
 読みやすくて一時間足らずで読めます。
 本の面白さを伝えようとしてくれるのに加えて、その小説に乗っかって著者の考え方などがちょいちょい出てきます。そのたびなんとなくお説教を聞かされている気がしました。
 よく見ると裏表紙にはこうあります。

SFは、科学を通じた現代社会への賛歌である。
テーマ別のオススメ本を通じて、
社会とは何か、生命とは何か、人はどう生きるべきか
などについて考えてみよう

 この本の主旨がそういうことなのでしかたないです。
 私はSFに限らず、小説を読むということは、小説を読む以上のことではないと思います。
 どう生きるべきか、なんて考えるのはまた別の話ではないでしょうか。
 
 ただ、SFは作者や読者の意図はともかく、大上段のテーマを盛り込みやすく、また読み取りやすいジャンルではあることは間違いなさそうです。

 巻末のブックリストはたいへん役に立ちます。
 理科系の基本的なこと(潮汐力とか)がわかりやすく説明されていて、勉強になりました。
SFはこれを読め! (ちくまプリマー新書)SFはこれを読め! (ちくまプリマー新書)
(2008/04)
谷岡 一郎

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2012年02月12日 | | TrackBack:0 | | | Top↑ |
 チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』(日暮雅通訳 ハヤカワ文庫)
 ヨーロッパにあるふたつの都市国家ベジェルとウル・コーマの間で起こった殺人事件を巡るミステリーとSFの間の小説。
 ほぼ現代の話ですが設定はもちろん架空。
 当然ベルリンやエルサレムや朝鮮半島などを想像しながら読んでいくと、設定はもっと奇妙なことになっています。
 二つの国家はほとんど同じ位置にあり、領土は入り組み折り重なっている。
 しかしベジェル人はウル・コーマ人のそばを物理的にすれ違ったとしてもその姿は「見えない」。
 正確に言うと見ないように厳しく訓練されてきているのです。
 見てはいけない。
 もちろんウル・コーマ人もそう。
 建物も見てはいけない。
 その禁を破る侵犯行為は「ブリーチ行為」と呼ばれ、両国家の上位に立つような組織「ブリーチ」が処罰し、その行為を消し去る。
 ブリーチ行為には両国の政府、警察は手は出せない。
 ブリーチという組織は神の比喩か、と読み進めながら思ったりしました。
 解説で大森望さんがおっしゃるように「裸の王様」のお話ですが、強引な設定なのにそのうち実在するように思わせるのがすごい。
 それぞれの国のお国柄や歴史、生活感などをきちんと描いています。
 国家自体についての話をこんなふうに書く手法があったとは驚きました。
 ストーリーは、警部補=私が事件の謎を追えばまた謎が現れ、と引っ張っていきます。
 ミステリーなので当然解決があるわけですが、最後は何となくありがちな大団円という気がしました。
 私としては事件は置いといても、もっと二つの国の話を続けてほしかった気がします。
都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)
(2011/12/20)
チャイナ・ミエヴィル

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2012年01月31日 | | TrackBack:0 | | | Top↑ |
 ラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュエル』1~4(宮下志朗訳 ちくま文庫)
 桑野隆『バフチン』、バフチン『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネサンスの民衆文化』と読んできてのラブレーだったが、実際読んだらすごかった。
 もちろんこういう順序で読んでよかったとは思うが、いきなり読んでも楽しい。
 物語の時系列は1『ガルガンチュア』2『パンタグリュエル』3『第三の書』4『第四の書』となっているのだが、執筆は2、1、3、4の順だそうである。どうしようか考えたが、訳されている宮下さんが「興味深い体験になるに違いない」とおっしゃるとおり執筆順に読んでみた。たぶんそれもよかった。
『パンタグリュエル』は展開もいいし、エピソードはお下劣の嵐。おしっこで敵の軍勢を溺死させるわ、性欲の塊のような道化的役割パニュルジュはむちゃくちゃやるし。というか、パニュルジュがいいんだよなあ。村上春樹の「牛河さん」の先祖。
 もちろん『ガルガンチュア』だってお下劣であることはまちがいない。ただパニュルジュがいないのが弱いところ。後半修道士ジャンが登場してぐっと面白くなるけど。
『第三の書』になると、1、2での物語の推進力だった戦争がなくなる。その代わりとなるのが登場人物たちの議論、会話。『対話篇』ぽいが、中身はパニュルジュが結婚したいんだが寝取られ男にはなりたくないし・・・というような他愛のないテーマ。しかしそこに聖書やら古典やら当時の政治状況やらが引用されまくっていて高密度。宮下さんの注釈も勢い多くならざるを得ない。たまきんブラゾン(たまきんカタログ)は延々続くし。で、話はなぜかパンタグリュエリヨン草という架空の植物の説明で終わってしまう。
『第四の書』ではパンタグリュエル一行が「聖なる酒びん」の神託を求めて大航海に出る。奇妙の島々を訪れ、時には戦い、飲んで食べる。当時の政治、宗教情勢に対するラブレーの怒りなどが表れていて、教会を徹底的に批判し笑いのめす。結局航海の目的は忘れ去られて、パニュルジュがうんちまみれになって話は終わる。
 とにかく作者は予定調和はなく、ひたすらまじめくさったこと、決まり切ったことからずれていこうとする。最初の二巻はまだ騎士道物語という枠組みがあったが、『第三の書』以降は物語を否定しようという力が強くなってくる。前衛さで現代文学はこれに追いついているのだろうか、と思うほどむちゃくちゃやっている。
 しかし何よりラブレーは読者のために面白く、そして読者の期待を裏切るように楽しく書いたんだろうな。
 そしてバフチンがいうように中世の民衆の祝祭空間、笑いの文化をラブレーは完全に理解していたから様々なテクニックを使いこなせた。
 どんなときにおいても深刻にならず、深刻になった瞬間笑い飛ばされる。
 こういうのはもっと若い頃に読んでおくべきだったのだが、私はどうしても渡辺一夫の訳が苦手で読めなかったのでした。 
 宮下さんの訳だと、ほんとに現代小説を読んでいるみたい(ある種の現代小説の方が古くさい)。 
 注釈も楽しいし、とにかく読みやすい。
 なお、『第五の書』も存在はするが、贋作が疑われるし、文学的には拙い作品とのことで、別巻として扱うとのことです。
 
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2012年01月28日 | | TrackBack:0 | | | Top↑ |
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